無償返還の届出と借地権の認定課税(底地の鑑定評価)大阪市中心6区

不動産鑑定評価ケーススタディー(この案件の概要)

大阪市中心6区(北区、中央区、西区、天王寺区、浪速区)で底地の鑑定評価をしたことがあります。典型的なケースでは、会社経営者をしている借地権付建物所有者が底地を買い取る場合における親族間の売買価格の妥当性を証明するためのご依頼などでしょう。

建物が建っている底地は、Aさん所有地とBさん所有地の2つの敷地があり、建物がそれぞれにまたがっているようなケースもあります。

Aさんという親族から底地を買い取る場合、出来るだけ安く買いたいという当事者の気持ちもありますが、あまりにも安い金額で売買されると、税務署に「著しく低い価額」で売買されたと判断され、その売買価額を否認される恐れがあります。この案件では、適正な時価で売買を行い、低額譲渡と認定されることを回避する目的と、Bさん所有地(底地)を買取交渉する場合に資料として活用できるよう不動産鑑定評価書を作成しました。

この案件では、当事者が交渉するとき、不動産評価に関する質問に答えてほしいという要望もあり、パワーポイントで一般の方にも分かりやすい資料を作成し、当事者が話し合う場に同席した案件でした。もともと、依頼者からすれば昔からの知り合いであり、気軽に話せる状況にあったのですが、物件の価値は1億近くあり、その場でOKという話になるような物件でなかったのですが、当事者間で時間をかけてゆっくり話しあっていくような案件でした。

このような借地権と底地の問題は、当事者間が話し合い出来る関係にあるときにしないと、話し合いが難しくなります。相続により当事者間の関係が薄れると、話し合いがしにくくなりますので、将来的な問題を引き起こさないよう、早い段階で借地と底地の整理を行うことが良い場合もあります。

私は、このような借地・底地関係の鑑定評価してきた経験から感じるのは、当事者の関係や当事者間の売買の必要性などに一番大きなウエイトがあり、次に価格面の問題となっているようです。したがって、当事者間の利害関係を調整した適正な時価(限定価格)であったとしても、当事者が売買を望まないと、売買は成立しにくいものであり、相手方の状況を踏まえて、交渉していく必要があります。

また、借地や底地は、相続税の評価では、実際の売買相場より高めに評価されるケースも考えられます。具体的には、かなり高い地代を支払っている底地の場合、適正な地代と実際に支払っている地代の差額である賃料差額が、借地人にマイナス(不利)となり、借地権価格を構成する理論構成が弱いケースが認められます。しかし、このようなケースでも借地権は、相続税財産評価の考え方で評価しますので、借地権所有者にとって不利な相続税財産評価となります。

土地の無償返還に関する届出(国税庁)

なお、この案件では、後述する土地の無償返還に関する届出の有無と依頼目的や出口を、最初に確認しました。

法人が借地権の設定等により他人に土地を使用させた場合で、その借地権の設定等に係る契約書において将来借地人等がその土地を無償で返還することが定められている場合に、これを届け出る手続です。

この届出を行っている場合には、権利金の認定課税は行われないこととなります。 なお、この届出者は、土地所有者が個人である場合であっても、提出することができます。

手続名 土地の無償返還に関する届出、国税庁

当該案件では、以下の論点が有り、大阪国税局にも確認しました。

質問: 所有者が無償返還の届出をしているか分からない場合どうすれば良いか?

回答:税務署に閲覧申請をして下さい。その際、代表者か税理士が来て下さい。税理士が来る場合、委任状が必要です。借地権の存在が税務署で認定されているなら、相続税の評価は底地評価となります。

質問:相当の地代の額は、原則として、その土地の更地価額のおおむね年6パーセント程度の金額ですが、契約当初は、6%だったが、その後それを下回った場合はどうなるか?

回答:土地の無償返還の届出が必要です。

注:当時のメモ書きを記載しているので、参考に留めて下さい。正確には、その時点で国税局などで確認が必要です。

土地の無償返還に関する届出と不動産の類型(底地)

借地権を設定する際に、土地について無償返還の届出書が税務署に提出されている場合の土地の評価については、重要な論点となります。同族会社が無償返還の届出書を税務署に提出しているケースで、かつ、権利金の授受はなく、底地所有者に地代を支払っている場合、借地人と底地所有者との間では、相続税の取り扱いでは借地権が発生していない土地(借地権の無い土地)と当事者では認識していることになります。

この無償返還の届出書が提出されているケースでは、相続税法上の借地権の価額は、無いものとして評価することになりますが、相続税法上の規定に関係なく、第三者が建物を建築し、実際に地代を支払っている場合、建物の所有を目的とする借地権と鑑定評価では把握すべきであり、底地の鑑定評価を行うのが原則です。

しかし、借地の当事者である借地人と底地所有者が第三者に借地権と底地権を一括で売却するケースでは、無償返還の届出が提出されていることや適正な地代を支払っていることを根拠として、建付地としての評価することが合理的であると判断される場合もあるようです。当該案件にかかる売買の状況によっては、底地評価が妥当ではない場合も考えられますので、売買の状況を踏まえ、税理士の先生と不動産鑑定士にご相談下さい。

なお、借地権者が無償返還の届け出をしているという事実は、鑑定評価の際に勘案すべき「借地権の態様」として考慮することになります。

No.4613 貸宅地の評価(国税庁)

貸宅地とは、借地人が建物を建てるために借りた土地のことを言い、土地を借地人に貸した場合、土地の底地の所有者は、その土地の処分に制約がでます。そのため、「自用地としての評価額」よりも土地の評価額が安価となります。

1 借地権の目的となっている宅地  

借地権とは、建物の所有を目的とする地上権又は土地の賃借権をいいます。  借地権の目的となっている宅地の価額は、次の算式で求めた金額により評価します。  

No.4613 貸宅地の評価、国税庁
相続税の財産評価では一般的には、上記計算式で求めます。

貸宅地とは、前述のとおり借地人が建物を建てるために借りた土地のことを言いましたが、貸家建付地とは鑑定評価上は、貸家及びその敷地の敷地部分を表現し、自己所有の土地に自分で建物を建て、その建物を第三者に賃貸している場合のその土地の所有権を言います。つまり、収益物件が建っている土地のことを言います。貸宅地も貸家建付地も自己所有の土地ですが、自己所有の土地の上に存在する建物の所有者が異なる点に注意が必要です。貸宅地は、借地人が自己の建物を建てている点で異なります。

貸宅地と貸家建付地の違いについて

低額譲渡の課税要件(国税の考え)

利害関係のない第三者との売買など、自由な取引の場合には低額譲渡の問題は発生しません。 親子間、親族間など血縁関係のある場合や法人とその役員間など特殊な関係がある場合には、売買価格が適正かどうか税務署が認定します。 法人の場合は、低額譲渡と認定されますと、買主からの受贈益として利益計上されます。これは、関連会社間の売買の場合は、買主である法人が時価よりも安価に不動産を買うと受贈益(適正な時価-取得価額)があると税務署に判断される可能性が考えられます。 関連会社間の売買の場合は、不動産の売買が適正な時価であることを当事者で証明して売買契約を締結し、税務署に申告しなければなりません。この場合の適正な時価の証明に不動産鑑定評価が活用されています。

低額譲渡のタイプ別分類

低額譲渡の課税要件

利害関係が無い場合→原則として認定課税はなされない。

利害関係がある場合は以下に分かれる。

・低額譲渡性の有無→なし→認定課税はなされない。

・低額譲渡性の有無→あり→認定課税がなされる。

No.4423 著しく低い価額で財産を譲り受けたとき(国税庁)

[平成30年4月1日現在法令等]  

個人から著しく低い価額の対価で財産を譲り受けた場合には、その財産の時価と支払った対価との差額に相当する金額は、財産を譲渡した人から贈与により取得したものとみなされます。

No.4423 著しく低い価額で財産を譲り受けたとき、国税庁

土地を第三者に貸すと、借地権という借地人を強力に保護される権利が出来ますので、底地所有者は、なかなか土地を返してもらえません。そのため、底地所有者が、借地人から権利金を受領できるのです。この権利金は無い場合もありますが、その場合、支払う地代でその分を勘案する必要があります。この場合、地代の支払いでこの権利金分を考慮せず、親族間の賃貸借なので権利金を受け取らないことになると、国税は、権利金を受領したものとして税金をかけることにしたのです。 これを、借地権の認定課税又は権利金の認定課税と言います。

この権利金は、地域の慣行により違いますが、土地価格✕借地権割合で把握されることも有り、実質的に借地権に近い金額で把握されることもあります。地域の慣行で権利金の授受が無い場合、権利金の授受がある場合に比べて地代が上昇するのが理論的であり、権利金には注意しなくてはいけません。

No.5732 相当の地代及び相当の地代の改訂(国税庁)

[平成30年4月1日現在法令等]  

法人が借地権の設定により他人に土地を使用させる場合、通常、権利金を収受する慣行があるにもかかわらず権利金を収受しないときには、原則として、権利金の認定課税が行われます。  

No.5732 相当の地代及び相当の地代の改訂、国税庁

不動産鑑定評価基準 第2節 不動産の類型

不動産鑑定評価基準で、底地については、宅地について借地権の付着している場合における当該宅地の所有権と規定されています。

不動産鑑定評価基準 第5章 鑑定評価の基本的事項

鑑定評価によって求める価格の種類で、限定価格について、隣接不動産の併合を目的とする売買に関連する場合について、限定価格となる可能性があると書かれています。

これは、不動産と取得する他の不動産 との併合により、市場が相対的に限定される場合の価格を言います。

不動産鑑定評価基準 各論 底地の鑑定評価

底地の価格は、借地権の付着している宅地について、借地権の価格との相互 関連において借地権設定者に帰属する経済的利益を貨幣額で表示したものであ る。 借地権設定費等を控除した部分の賃貸借等の期間に対応する経済的利益及びその期間の満了等によって復帰する経済的利益の現在価値をいう。

不動産鑑定評価基準、国土交通省

将来において底地所有者が一時 金を受け取る可能性がある場合には、一時金の経済的利益も底地所有者である借地権設定者に帰属することに注意が必要です。

底地の鑑定評価を行う際には、実際支払っている地代から収益価格を求め、底地の売買事例が存し、要因比較が可能な場合は、比準価格を求めます

また、底地を借地人が買い取るケース(その逆のケース)では、当該土地が同じ所有者になることによる経済価値の増分が生ずる場合があることに注意しなくてはなりません。

底地の評価では、それ以外に、将来的にどの程度地代が改定される可能性があるか、借地の契約内容や建物があと何年持つか、契約までに至った当事者間の事情、借地期間の残り期間、現在のあるいは、将来見込まれる権利金の有無など一時金の内容、借地権が売買される地域であるか、底地の取引利回りが把握できるか否か、更地価格の水準などにも留意しなくてはなりません。 

REIT 底地の利回り事例(注:最新事例ではない。)

オリックス不動産投資法人
阪急阪神リート投資法人
ジャパンエクセレント投資法人

上記は古い事例なので参考に留めて下さい。利回りの事例は、元本価格が更地なのか底地なのか、時点はいつなのか、借地権の種類、所在などに注意が必要です。

まとめ

無償返還の届出書が提出されている場合、相続税法上の借地権の価額は、無いものとして評価することになりますが、第三者が建物を建築し、実際に地代を支払っている場合、底地の鑑定評価を行うのが原則です。しかし、売買のスキームによっては、底地評価が適当ではない場合もありますので専門家にご相談下さい。

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